お知らせ

「緊急期及び長期化する危機下の教育」をテーマとしたオンラインシンポジウムを開催

2022年10月18日(火)、教育協力NGOネットワーク(JNNE)では、教育変革サミット(Transforming Education Summit: TES)での議論を踏まえ、緊急期及び長期化する危機下の教育(Education in Emergencies and Protracted Crises: EiEPC)の現状と重要性、それに対して日本としてできることについて、ユース世代が各分野の専門家と議論を行う国際オンラインシンポジウム「緊急期及び長期化する危機下の教育をいかに支援できるか ~教育を後回しにはできない基金 ヤスミン・シェリフ事務局長を招いて~」を開催いたしました。政府機関、国際機関、学校関係者、民間企業、NGOなどから78名が参加しました。

冒頭、 司会を務めるJNNE副代表 (ワールド・ビジョン・ジャパン)の柴田哲子より、シンポジウム開催の背景と趣旨について説明を行いました。すなわち、第77回国連総会に合わせて開催されたTESでは、教育が直面する危機が共有されたが、その中でも特に緊急期および長期化する危機(emergencies and protracted crises)の状況下において、最も深刻な形で教育を受ける権利が侵害されていることが示されたことを報告。その状況は増大・長期化する傾向にある一方、教育分野に対する支援は緊急人道支援資金の2-4%に過ぎないことを提起し、ユースと国内外の有識者とともにこの問題について議論行うことを通じて、EiEPCに対する理解を深めるというシンポジウムの目的を共有しました。

開会挨拶では、谷合正明参議院議員よりウクライナ難民支援の現場視察の所感を踏まえたEiEPCの重要性についてご発言いただきました。ポーランド、モルドバ、ルーマニアの東欧三カ国を視察され、「支援ニーズの一番のプライオリティは教育にある」と感じられたことを共有していただき、「ECW(教育を後回しには出来ない)、GPE(教育のためのグローバル・パートナーシップ)、UNICEF、UNDPがそれぞれの役割を担い、互いに補完し合いながら、子どもたちに対する支援を深めていかなければならない」とした上で「日本政府として、ECWにコミットできるように後押ししていきたい」と述べられました。

第1部では、海外からのゲストスピーカーとして、2016年の世界人道サミットで設立が合意された、世界で最初の緊急時の教育支援に特化した多国間援助機関である「教育を後回しにはできない(Education Cannot Wait:ECW)基金」より、ヤスミン・シェリフ事務局長にご登壇いただき、現場の最新の状況を踏まえたEiEPCが直面する現状と課題について、そしてECWの活動についてご紹介いただきました。「全ての子どもたちへの教育の提供がなくては、人間の安全保障は達成できない」と鋭く指摘した上で、「ECWへの支援を通じて、人間の安全保障の実現に向けて世界をリードしてほしい」と日本政府に対する期待を述べられました。

第2部では、「ユースとの対話」と題するセッションを行いました。まず、国際教育協力分野で活動する日本のユースとして、セーブ・ザ・チルドレン インターン・宇都宮大学国際学部国際学科4年の菊地翔さんと、ワールド・ビジョン インターン・慶應義塾大学法学部政治学科4年の小林妃奈さんより、EiEPCの重要性と日本政府への期待に関する意見・質問を共有しました。

その後、ユースからの質問に対しECWのヤスミン事務局長、ウクライナ難民支援の現場を視察された高橋光男参議院議員、日下部英紀外務省国際協力局審議官・NGO担当大使を交え、議論を行いました。ユースからの問いかけに対して、ECW事務局長からは世界から向けられる日本のEiEPC支援への期待や、ECW支援を通じた日本へのプラスの影響についてお話しいただきました。また高橋議員からは、ウクライナ難民支援の現場視察を踏まえたEiEPCの重要性や、ユースの声を政策に反映する方法についてお話しいただきました。そして日下部大使からは、今後の日本の国際教育協力のあり方についてご説明いただいた上で、ユースより投げかけられた「人間の安全保障を推進する日本として、ECWを通じた支援をどう考えるか」という質問に対しては、「ECWへの拠出は未定」との回答をいただきました。

議論の中では、それぞれの登壇者から以下のようなコメントがありました。

  • ヤスミン・シェリフECW事務局長

【日本がECWに拠出することで、どのようなプラスの影響があると思いますか?】

日本ができる最大の貢献は、数百万の子どもたちに対して、全人的(Holistic)な教育を届け、彼らの夢を叶えられることだと思います。また、日本がECWに仲間入りすることで、支援アクターがともに活動し、支援の一体性を実現できる、すなわち「人道支援と開発支援の切れ目のない連携(Humanitarian-Development Nexus)」を実現できると示せることだと思います。

ECWはグローバルファンドとして、個別にある基金をコーディネートし、教育支援への全人的なアプローチを保障します。個別の基金にバラバラに拠出するだけでは、社会的結束(Social Cohesion)は達成できません。ECWに拠出することで、投資の質、コラボレーション、そしてコーディネーションが高まり、教育支援全体としての統合的な成果が期待でき、学習の成果に繋がります。このような画期的な支援を行うECWは国連改革の成果の一つと言われ、国連からも高く評価されています。ECWは、これまでの人道支援や開発支援のあり方を覆す、ゲームチェンジャーなのです。

日本としてECWとのパートナーシップを結ぶことで、ECWのコーディネートされた教育支援に貢献することができます。また、ハイレベル運営グループの一員として、人間の安全保障の議論を推し進めることができます。人間の安全保障は教育なしには実現しません。2023年に開催されるハイレベル資金調達会議では、ぜひ日本政府に人間の安全保障と教育の関係について話していただき、存在感を示していただきたいです。

  • 高橋光男参議院議員

【どうしたら子どもやユースの声を政策に反映できると思いますか?】

ユースの方々に声を挙げていただき、その声を国民を代表する国会議員が受けて、外務省をはじめとする政府の方々に届ける、今回のような場を今後も設けていくべきだと思います。

コロナ禍で海外にいく機会が制限されていたことによって、現在、世界では内向きになっている傾向があり、先進国の中でも「援助疲れ」が起きていると感じています。そのような中で、「平和国家」を掲げる日本が今後も教育支援をはじめとする国際協力に取り組んでいくためには、世界で起きている出来事により敏感であるユースのみなさんの問題意識について声を上げていただき、いただいた声を、我々議員が国会の場で発言し、政府を動かしていく、そのようなことが必要だと思います。

【ウクライナ周辺国への視察に行かれた際、ウクライナ難民の子どもたちへの「緊急下の教育」の重要性をどのように感じましたか?】

ウクライナ周辺国への視察を通じて感じたことの一つは、子どもたちへの教育の重要性です。ウクライナ国内、そして周辺国に避難する多くの子どもたちを支援するには、教育の場を提供すること、例えば、校舎の修繕、スクールバスの提供、タブレットの配布などが必要だと感じました。

そして、日本の政府としてできることは何かについて考えました。一つは、安全の問題上立ち入ることができない紛争国で支援を実施するために、国際機関やNGO等を通じた支援が重要であるということを感じました。また、ウクライナ周辺国への支援が大変重要になる中、ODAを卒業したポーランドやルーマニアなどの国々に支援することは、現状のODAの枠組みでは限界があるということも感じました。しかし、未曾有の人道危機に対しては従来の枠組みに捉われず支援する必要があると考えますので、このような支援が実現できるように、後押ししていきたいと思います。

  • 日下部英紀外務省国際協力局審議官・NGO担当大使

【2023年に開催されるG7やECWの増資会合への対応について、どのようにお考えですか?】

2023年に広島で開催されるG7でどのような成果をめざすのかについては、政府内で検討が始まっているところです。また、G7サミットの関係閣僚会合として、G7教育大臣会合も開催される予定ですが、これについても関係省庁で議論が始まるところで、教育分野の様々な課題について議論が深まることが予想されます。ECWの増資会合への対応については、現時点では未定ですが、ECWの取り組みは評価しており、緊急下の教育支援の重要性も理解しています。ECWへの拠出を通じた支援のメリットや他の機関に拠出する場合との違い等を承知したいので、皆さんのご説明やご意見をお聞かせいただければと思います。 

【危機の影響を受ける子どもの数が急増する中、ECWを通じた支援は国際教育協力の潮流となっていますが、この潮流への参加や協力をどのように考えますか?】 
ECWが取り組んでいる緊急下の教育支援の重要性や趣旨に賛同します。一方で、日本の教育協力は、相手国のニーズやプライオリティを踏まえた二国間支援を従来より続けてきているという経緯、実績があります。また、緊急下の教育支援についても、シリアやブルキナファソにはUNICEFを通じた支援、イエメンやシリアにはGPEを通じた支援等、国際機関を通じた支援を行ってきました。二国間支援を行うことのメリットとして、相手国に日本からの支援であることがより明確に認識されるということが挙げられます。限られたODA予算の中で、効果的かつ日本国民の支持を得られる援助をしなければいけないことを踏まえたときに、「顔の見える支援」は重要な視点の一つだと考えています。

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