11月11日(月)に外務省の地球規模課題総括課およびNGO協力連携室のみなさまと意見交換会を実施しました。
6月から9月にかけて実施した「SDG4教育キャンペーン2024」では、4回にわたって授業を行い、ロヒンギャ難民キャンプを事例に市民・子ども・ユースのみなさまと「紛争下の教育の重要性」について考えてきました。
今回の意見交換会では、今年度のキャンペーンの活動報告をするとともに、キャンペーンに参画したユースからの意見・質問を伝え、外務省のみなさまに回答・コメントをいただきました。また、キャンペーンを通じて集められた「子どもの声」を紹介し、教育政策やNGO連携を担う担当者から声を寄せてくれた子ども・ユースに向けたメッセージをいただきました。
バングラデシュ・ロヒンギャ難民キャンプ視察の報告
7月にキャンペーンの一環で、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの職員2名と日本の中学・高校の先生2名でバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプを視察しました。意見交換会では、まず新潟県で英語教諭を務める関先生から、その際に難民キャンプで見たことや、教育の現場から届けたい声を紹介しました。
「私たちの訪問の最大の目的は、現地の教育事情や子どもたちの学びの実態を視察することと、現地の先生や教育を支える地域スタッフとの直接対話することでした。現地ではまずCommunity-Based Learning Facility(CBLF)と呼ばれる地域密着型・少人数の学習の場を訪問しました。11歳から18歳の女子が、ロヒンギャ出身の先生とバングラデシュ出身の先生のもとで学んでおり、グループワークが盛んに行われておりました。また、40人から70人ほどの子どもたちが教室形式で学ぶラーニングセンター(LC)にも訪問しました。こちらでは大人数にかかわらず先生と子どもたちがインタラクティブに授業を進めているほか、インクルーシブ教育が前提とした丁寧な支援がなされていました。これらの訪問を通じて、さまざまな立場の人たちが協働しながらすべての子どもたちにとって安心安全な学びを目指す姿に非常に刺激を受けたほか、教育が子どもたちはもちろん、大人にとっても希望となっていることがわかりました。危機下でも教育機会があることは、子どもたちを物理的にも精神的にも守ることにつながります。また、教育を通して社会性や道徳に関する知識を得て、自分自身の身を守ることにもなるのです。対立を乗り越える力を与えて、人の心に平和の砦を築くためにも教育は重要だということは明らかで、教育支援に投資する重要性を改めて実感しました。」
その後、SDG4教育キャンペーンに参画したユース3名から外務省に向けてコメント・質問を行いました。以下抜粋してお伝えします。
ユースの意見・質問
「私は今回のキャンペーンを通じて2回の授業に参加させていただきました。教育が紛争下において軽視されがちなのはご存知の通りだと思います。 大前提として教育に目を向けられるくらいの最低限の衣食住や、教育を受ける心の余裕が持てるための健康状態や心身のケアが必要です。 ロヒンギャ難民に対して行う教育も難民キャンプにたどり着けた方々に対して行えるものであり、そこに避難できない方も大勢います。 教育というのは本来広く開かれるべきですが、いかに限定的にならざるを得ないのか改めて感じさせられました。
以上を踏まえて教育の意義について考えたところ、主に二つに分けられるのではないかと考えています。 一つ目は、価値観を育むための教育です。紛争は主に民族間、宗教、人種の違いから起こっています。 これらの違いをなくすことはできませんが、共存し、違いを差別しないようにするという根本的な考え方を教育によって変えることはできるというふうに考えています。 今、私が紛争のニュースを見て、『これはおかしいな、間違っていることが起きているな』と自分の中に怒りとか悲しみとかの感情が感じられるのは、まさに教育の賜物です。 いかに学習者が何事にもバイアスを持たずに広い視野で物事を考えられるようになるか、その延長線に教育の位置付けがあると感じました。 二つ目は生きる力を育み、生活を豊かにするための教育です。数字や文字は読めなければ生活をしていくことも困難でだと思います。これらの意義はどちらも大事にすべきであると今回の授業で改めて感じさせられました。」
「今日は私たちユースとして、危機に直面する子どもたちに教育の機会を確保し、日本が安定と回復力、平和への道筋を提供するリーダーになることへの期待を伝えたいと思っています。
教育は単なるの学びを超え、『人間の安全保障』と法の支配の根幹を支える重要な要素だと考えております。紛争や危機が続く地域では教育を通じて、若者に秩序と構造を提供して公正・尊重・平和といった法の支配に欠かせない原則が育まれます。
日本は長年にわたりこうした概念を推進してきましたが、これらの理念は特に紛争などにより人間の安全保障が脆弱な地域において、教育の権利と切り離して考えることはできません。教育は人間の可能性を開き、平和や正義を推進する力を持っています。そこで、外務省には教育を日本の ODA 戦略の中心かつ長期的な重点要素として捉えていただきたいと期待しています。 教育協力に継続的に取り組むことで、日本の開発支援の質と効果を世界規模で高め、日本が重視する『人間の安全保障』や法の支配が実現された世界を築くことにつながると思います。 日本が2023年にECW(教育を後回しにはできない基金)に初めて拠出したことは大きなステップだと思っていますが、まだ支援は足りていません。日本がより信頼される存在になることを心から願っています。」
「我々がここでユースとして発言できているというのは学校教育を通じて世界の諸問題について学び、それらの中で芽生えた問題意識があって、みなさまに共有することができています。これはそもそも大いに教育の成果だと考えています。子どもやユースを、 社会を動かす一員に変えていくということが教育の意義だと考えていますが、それは限られた人々だけではなくて、すべての子どもに開かれている必要があります。これは子どもの権利条約の第 28 条・29 条にも明記されています。これからも教育の未来、そして世界の未来のために外務省のみなさまと NGO とで良好な協力関係を築いていくことを期待しています。
我々の問題意識を踏まえて、ユースより二つ質問をさせていただきます。
まず一つ目は国際教育協力についてです。開発協力大綱にある通り、日本はこれまでも質の高い成長とそれを通じた貧困の削滅という形で ODA の中でも教育を重視していると感じています。一方で専門国際機関への拠出額などを確認すると、保健などの諸分野に比べて、教育に充てられている予算が限定的だと感じざるを得ない時があります。今後、教育を通じた国際協力の展望についてどのようにお考えかお伺いしたいと思います。
二つ目はODA 全体に関する質問です。 政府全体の ODA予算は1997年のピーク時点から半分になっており、2010年以降は国家予算が拡大しているにもかかわらず、5500億円前後で横ばいの状況が続いていると認識しています。外務省としてODA 全体のパイを増やして、教育に限らず国際協力全体を拡大していくために何か働きかけなどを行っているのかという点について質問させていただきます。」
外務省からのコメント・回答
ユースの意見に対して外務省の皆さまよりコメント・回答をいただきました。以下抜粋です。
「ユースの皆さんの意見はいずれも重要だと思い、同意するところが多くありました。
ご質問について、
①日本政府として教育に対する協力を以前から非常に重視し、できる限り一生懸命実施してきたと思いますし、これからもそうであると言えると思います。二国間協力に関しては、JICAを通じて各国の要請に応じた協力を可能な限り実施していく、できることは全部やっていくとともに、ユニセフやユネスコ、GPEやECWなどの国際機関の特性を生かした教育協力も進めています。 教育政策を担当する立場として、できる限りは資金拠出をしたいと要望しますが、開発協力は非常に多くの国に多くの要望に応じてやっているものですので、すべての要望が通るとは限りません。引き続き二国間、多国間、国際機関を通した協力を実施していくつもりです。また、NGO を通した協力を日本政府として支援する事例もあり、今後も取り組んでいきたいと考えています。
②ODA全体の予算が厳しい中で教育分野がどうなるのか。これは教育を絶対に軽視はしないということを確信していても、変わりゆく世界情勢の中で何の予算が一番必要になるかは毎年その時々で考えなければいけないというところであります。保健分野の伸びが近年相対的に高かったということはありますが、教育についての認識はみなさまと共有しており、その重要性はこれからも変わりありません。可能な限りの協力を今後も努力して実施したいと思います。」
「NGOを通した支援に関して、ジャパン・プラットフォーム(JPF)への資金拠出について少々話させていただきます。JPFでは国際機関を通じた教育支援は実施しておりませんが、NGO関連では緊急支援が目的ではあるものの教育にも力を入れています。例えば昨年ですと、教育は 8.0% も占めており、一昨年度に関しては教育の割合は23.8%でした。 やはり食糧支援が多いとはいえ、教育はそれに次いで二番目に大きい割合を占めており、教育を重視して取り組んでいます。」
子ども・ユースへのメッセージ
最後に、2024年度SDG4教育キャンペーンの授業に参加した子ども・ユースから寄せられた声を外務省にみなさまに届けました。この声は、紛争の影響下にある教育がどのような状況なのか、またそれに対し日本政府がこれまでどのように取り組んできたかを学んだ上で、日本政府に期待することを手紙の形でまとめたものです。
以下は、外務省の方々より子ども・ユースに向けていただいたメッセージです。
「自分の考えを言う権利をこれからも意識してほしいです。これは先にも話題に出た通り、教育を受けたからこそ持てる自分の意見というものがあると思います。異なる意見でも自由に表明できることが非常に大事だということを意識してほしいなという点にとても共感しました。」
「実際に自分たちで勉強して調べてやはり教育が大事だと気づくように、教育受けたからこそ自分の考えをまとめてしっかりと発信することができます。ぜひこれからも自分の考えを言葉にできるように頑張ってほしいと思います。」
「みなさんの感性で学習しながら新しいことに挑戦し、いろいろな問題を解決していこう、未来に対して活動していこうという意気込みのようなものを感じて大変頼もしいなと思いました。若い視点からの意見は、すでに組織に入っている人たちにとって貴重な意見になるので、引き続きどんどん発信していただければと思います。」
「みなさんのお話を伺って、現場を見たり、その現地の状況の話を聞いたりして考えたことをわかりやすく発表するのは大変素晴らしいことだと思います。 先ほどユースの方がおっしゃっていたように、やはり平和を作っていくためには、多様な価値観に対する理解を深めることが非常に重要です。日本でこうして今教育を受けている若いみなさんが、今後も他国の状況にも思いを寄せて理解を深めていってほしいなと思います。」
今回の意見交換会では、外務省とユース世代の間で危機下の教育の重要性について再確認し、市民の声を届ける貴重な機会となりました。また、今後NGOともさらに連携を深めていく契機になったと考えています。今回のキャンペーンを通じて声を寄せてくれたみなさま、SDG4教育キャンペーンの趣旨にご賛同いただける方は、今後も我々と声をあげていただけますと幸いです。
SDG4教育キャンペーン2024について
SDG4教育キャンペーンは、『質の高い教育をみんなに』を掲げているSDG4の教育目標を実現していくために、市民参加型のアプローチで政府や国際社会の皆さんに声を届けていくための啓発キャンペーンです。本年度は「紛争下の教育」をテーマに、長期化している紛争などの危機下においても教育が重要であることを訴えてきました。キャンペーンでは、危機の現場で関わっているみなさんの課題を伝え、日本政府・国際社会として必要な支援について子ども・ユース・市民のみなさんと一緒に考えるために授業の実施やSNSでの発信を行ってまいりました。特にSNSでの発信はのべ3万7000人にリーチしました。